【結論】

香港税務局(IRD)が2026年9月5日時点で公表している最新情報によれば、「Inland Revenue (Amendment) (Crypto-Asset Reporting Framework and Amended Common Reporting Standard) Bill 2026」は、2026年5月22日に官報掲載され、6月3日に香港立法会へ第一読会として提出されました。重要なのは、現時点でもIRDが「Bill(条例案)」として掲載し、立法会による審議対象であると明記している点です。したがって、CARF(Crypto-Asset Reporting Framework)や改訂CRSをすでに施行済みの確定法として扱うのは正確ではありません。法案成立を前提に、CARF関連改正は2027年1月1日から、改訂CRS関連改正は2028年1月1日から実施する計画です。

【制度背景―暗号資産を国際的な税務情報交換網へ】

CARFはOECDが2023年に策定した暗号資産取引に関する新しい国際的税務透明性基準です。香港政府は、必要な国内法制化を2026年中に行うことを前提として、2028年にCARFによる最初の自動的情報交換を行う方針を示しています。

CARFの対象となるRelevant Crypto-Assetsは、暗号技術によって保護された分散型台帳または類似技術を利用し、価値に対する権利を表し、その権利をデジタルで取引・移転できる資産です。代替性トークンだけでなくNFTも定義上含まれ得ます。ただし、中央銀行デジタル通貨(CBDC)、Specified Electronic Money Products(一定の電子マネー商品)、決済・投資目的に利用できないと適切に判断される暗号資産はCARF上のRelevant Crypto-Assetsから除外されます。

対象となるReporting Crypto-Asset Service Provider(RCASP)には、事業として顧客のために暗号資産と法定通貨、または暗号資産同士の交換を実行する取引所、ブローカー、ディーラー、一定のATM運営者などが含まれます。香港とのネクサスは税務居住地だけでなく、香港法による設立、香港からの管理、香港の恒常的事業拠点・支店なども考慮されます。つまり「香港法人だけ」が対象になる制度ではありません。

【CARFで何が報告されるのか】

対象取引には、暗号資産と法定通貨の交換、暗号資産同士の交換、一定の暗号資産移転が含まれます。RCASPは、報告対象となる利用者や法人利用者のControlling Persons(支配者)について、氏名、住所、税務上の居住地、TIN、生年月日等の識別情報に加え、暗号資産ごとの取得・処分・移転に関する金額、数量、取引回数などの集計情報を報告する仕組みです。

新規顧客については自己証明を取得し、その合理性を確認することが求められる予定です。既存顧客についても、制度施行後12カ月以内に自己証明を取得する仕組みが示されています。また、香港とのネクサスを満たすRCASPは、報告情報がゼロの場合を含めCARF Portalへの登録が求められる予定です。

【改訂CRSは2028年から対象を拡張予定】

一方、改訂CRSでは従来の銀行預金・証券等に加えて、CBDC、Specified Electronic Money Products、Relevant Crypto-Assetsを参照するデリバティブ、Relevant Crypto-Assetsへ投資するInvestment EntitiesなどをCRSの対象範囲へ追加する法改正が提案されています。

報告情報も増えます。RFI(Reporting Financial Institution)は、報告対象者について有効な自己証明を取得したか、Controlling Personや持分保有者がどのような立場で支配者等に該当するか、既存口座か新規口座か、共同口座か、共同名義人の人数、金融口座の種類などを追加報告することが予定されています。口座保有者には、税務上の居住地となるすべての法域を自己証明させる方向です。

また、同じ暗号資産情報がCARFとCRSの双方で二重報告される問題にも対応します。改訂CRSでは金融資産の売却・償還による総収入の報告範囲が拡張されますが、RFIがRCASPでもあり、対象暗号資産についてすでにCARFで必要な総収入を報告している場合、原則として改訂CRS側で同じ情報を重複報告する必要はありません。ただし、金融機関が追加的にCRSでも報告することを選択できる仕組みが提案されています。

【中国人投資家への影響】

中国人投資家について特に注意すべきなのは、CARF・CRSとも「中国国籍だから中国へ報告される」という制度ではないことです。重要なのは税務上の居住地です。香港口座、香港法人、日本不動産を保有しているという個別の事実だけで税務居住地を断定することもできません。各法域の税法と実際の居住・生活・事業等の状況に基づいて判断する必要があります。

そのため、中国本土・香港・シンガポール・日本など複数地域に金融口座、会社、暗号資産、日本不動産を保有する投資家では、銀行や暗号資産サービス事業者に提出する税務居住地、TIN、住所、法人分類、Controlling Person情報と、実際の税務申告との整合性が重要になります。

【日本不動産実務への影響】

日本不動産との関係では、CARFや改訂CRSが日本の不動産取得そのものに新税を課すわけではありません。しかし、例えば香港で暗号資産を売却して法定通貨へ交換し、その資金を日本へ送金して東京の不動産を購入するケースや、日本不動産の売却代金を香港へ送金し、その後暗号資産へ転換するケースでは、銀行側のCRS情報、RCASP側のCARF情報、AML/KYC上の資金源確認、日本側の不動産取引資料が相互に関連する可能性があります。

したがって、日本の不動産実務では、暗号資産由来の購入資金について、単に「香港の銀行から着金した」という事実だけを見るのではなく、資金形成過程、暗号資産売却記録、取引所記録、銀行入出金、送金者と買主の関係などを説明できる資料管理が重要になります。

なお、CRS・CARFは情報報告制度であり、所得税率を直接決定する制度ではありません。非居住者が日本不動産から賃料を取得した場合や不動産を譲渡した場合には、日本法上一定の源泉徴収が生じることがありますが、源泉徴収率と最終税率は別の概念です。最終税額は所得区分、取得費、必要経費、保有期間、確定申告、租税条約等を踏まえて判断する必要があります。

【注意点】

2026年9月5日時点で最も重要なのは、「2027年CARF、2028年改訂CRS」という予定を確定施行済み制度と表現しないことです。IRD自身が、条例案は立法会の審議対象であり、成立後の最新状況に注意するよう明記しています。なお、香港ではこれとは別に、CRS金融機関の登録・記録保存・制裁等を強化する「Inland Revenue (Amendment) (Automatic Exchange of Information) Ordinance 2026」がすでに成立しており、2027年1月1日に施行されます。両制度は区別して理解する必要があります。

一次情報:香港税務局(IRD)「Inland Revenue (Amendment) (Crypto-Asset Reporting Framework and Amended Common Reporting Standard) Bill 2026」。2026年5月22日官報掲載、6月3日立法会第一読会。法案成立を条件としてCARF関連措置は2027年1月1日以降、改訂CRS関連措置は2028年1月1日以降の実施が予定されています。