結論
中国国家税務総局が2026年8月7日に示した説明は、日本不動産を持つ中国人投資家にも重要です。税務総局は、中国本土の税務居住者が国外所得について納税義務を負うことは従来からの基本原則であり、最近注目された香港保険収益への課税は新政策でも香港だけを狙った制度でもないと説明しました。これは「香港保険」という個別商品だけのニュースとして読むべきではなく、日本不動産の賃貸所得や譲渡所得を持つ中国税務居住者にも共通する国外所得管理強化の文脈で見る必要があります。
今回何が起きたか
中国では香港保険の収益に対する課税が突然始まったとの市場観測が広がりました。これに対し国家税務総局の関係部門責任者は8月7日、中国の個人所得税法に基づき、中国税務居住者は全世界所得について納税義務を負い、国外保険収益も課税対象となり得るが、これは新政策ではなく、香港保険だけを対象にしたものでもないと説明しました。また、税務当局は近年、この原則に基づく政策案内や申告喚起を継続しているとしています。
日本不動産所得はどう扱われるか
中国の財政部・国家税務総局が公表した国外所得に関する個人所得税政策では、中国国外にある不動産を譲渡して得る所得は国外所得に分類され、国外で使用される財産の賃貸所得も国外所得として扱われます。したがって、中国税務居住者が東京や大阪などの日本不動産を所有し、賃貸または売却によって所得を得る場合、中国側でも国外所得として申告対象となる可能性があります。
ここで重要なのは中国国籍と中国税務居住者を同一視しないことです。中国籍で日本に生活基盤を移している人、日本と中国を往来する人などは、それぞれ居住状況や国内法上の要件に基づいて税務居住者判定を行う必要があります。香港やシンガポールに銀行口座を持つことも、税務居住地を自動的に変えるものではありません。
日本側の課税との二重課税調整
日本国内にある不動産から生じる所得は、日本側でも課税対象になります。例えば、日本税法上の非居住者が日本不動産の賃料を受け取る場合には原則20.42%の源泉徴収が行われますが、これは最終税率ではありません。必要な確定申告により、収入から必要経費等を反映した所得と税額を計算し、源泉徴収税額を精算することがあります。
また、日本不動産を非居住者が売却した場合、一定の土地・建物等の譲渡対価には10.21%の源泉徴収が行われますが、10.21%も最終譲渡所得税率ではありません。取得費、譲渡費用、保有期間などに基づいて実際の譲渡所得税を計算し、確定申告で精算します。
外国税額控除が重要
中国の国外所得政策では、税務居住者が一つの国・地域で実際に納付した所得税について、中国側で計算した所定の控除限度額の範囲内で外国税額控除を認めています。実際の国外税額が限度額を超える場合、一定の超過額について後年度への繰越控除制度も定められています。そのため、日本で所得税を納めた後、中国でも同じ所得に単純に20%を加えるという計算は誤りです。
中国の国外所得には所得区分ごとの計算方法があり、「中国人の海外所得すべてに一律20%」と理解することも適切ではありません。日本不動産の賃貸所得、譲渡所得、配当などは所得の性質を分けて確認する必要があります。
申告時期と証憑管理
中国の2020年第3号公告では、居民個人が国外所得を得た場合、原則として所得を得た翌年3月1日から6月30日までに申告するとされています。日本での確定申告書、納税証明、源泉徴収に関する資料、売買契約書、取得費・修繕費・仲介手数料等の資料を整理しておくことが重要です。
中国人投資家への実務上の意味
- 日本の家賃を香港・シンガポール口座で受け取っても、中国税務居住者であれば国外所得問題は残る。
- 日本で源泉徴収された金額と日本で最終的に確定した所得税額を区別する。
- 外国税額控除には日本で実際に納付した税額の証拠を保存する。
- 中国側の申告漏れをCRSと無関係と考えない。
一次情報と確認日
国家税務総局の2026年8月7日公表内容および財政部・税務総局公告2020年第3号の現行規定を2026年9月9日に確認しました。