結論

中国財政部・国家税務総局は2026年7月24日、「離岸信託個人所得税に関する事項の公告」(2026年第21号)を公表し、国家税務総局も同日、具体的な徴収管理事項を定める2026年第15号公告を公表しました。重要なのは、離岸信託に移す「財産」の範囲に動産、不動産その他各種財産が含まれること、居民个人が財産を離岸信託へ移す段階、信託運用中、一定の分配・終了時などについて個人所得税の取扱いと申告手続が具体化されたことです。

制度の対象

公告が定義する離岸信託は、国外法令に基づいて設立された信託または信託機能を有するその他の法律上の仕組みです。単に名称が「信託」であるかだけではなく、実質的に信託と類似する機能を持つ国外の法的アレンジメントも対象となり得ます。一方、国外の銀行、保険会社、証券会社、基金会社等が不特定多数の顧客向けに独立して提供し、自らリスクを負う一定の金融商品は公告上の定義から除外されています。

財産を信託へ移す段階

公告は、居民个人が財産を離岸信託へ移す場合、移転時の市場価値から財産の原価と合理的費用を差し引いた残額を課税所得額として「財産転譲所得」の取扱いを定めています。ここでいう財産には不動産も含まれるため、中国または国外の不動産と関連する信託ストラクチャーを持つ人にとって影響が大きい制度です。

徴収管理公告によれば、居民个人は原則として財産を離岸信託へ移した翌年3月1日から6月30日までに関連する財産転譲所得について主管税務機関へ申告します。非居民个人についても、中国国内源泉となる財産転譲所得がある場合には別の期限が定められています。

信託運用中の所得

居民个人が財産を離岸信託へ移した場合、前年に信託から生じた一定の収益について、毎年3月1日から6月30日までに「財産転譲所得」「利息・配当・利益分配所得」等として申告する仕組みが示されています。したがって、信託内部に利益を留保し、実際に本人へ現金分配されていないから当然に中国個人所得税が発生しない、と一律に判断することはできなくなっています。

日本不動産との関係

日本不動産を本人名義で直接所有しているだけで、この公告が直ちに適用されるわけではありません。しかし、中国の居民个人が香港、シンガポール、ケイマン等の離岸信託へ不動産そのもの、あるいは日本不動産を保有する会社の株式等を組み入れる構造では、公告の対象となる可能性を具体的に検討する必要があります。

また、日本不動産から生じる賃料や売却所得については、信託構造とは別に日本側の国内源泉所得課税を確認する必要があります。所有者や受益構造を国外へ移したからといって、日本にある不動産から生じる税務関係が当然に消えるわけではありません。

外国税額控除

中国税務総局の政策解説は、居民个人が離岸信託に関連して国外ですでに個人所得税性質の税金を納付しており、中国税法上の控除条件を満たす場合、国外所得申告時に外国税額控除を行うことができると説明しています。したがって、日本で納税した税金がある場合も、要件を満たせば中国での控除対象となる可能性があります。ここでも「日本税+中国税」を単純加算してはいけません。

主管税務機関も明確化

税務総局2026年第15号公告では、信託へ組み入れる財産に関連する中国国内の主要生産経営企業がある場合、その企業の登録地を主管税務機関とし、該当企業がない場合には中国国内財産の所在地または常住地等を基準とするルールが示されました。

実務上の注意点

  • 離岸信託の委託者、受託者、受益者、実質的支配者を整理する。
  • 日本不動産そのものだけでなく、不動産保有会社株式を信託へ移した場合も確認する。
  • 信託設定時の市場価値・取得原価・合理的費用を証明できる資料を保存する。
  • 日本で納付した所得税の納税証明を保存する。
  • 香港・シンガポールの信託だから中国税務の対象外と決めつけない。

今後確認すべきこと

離岸信託課税は、居住者判定、財産評価、信託契約、受益者、法人介在、国外税額控除など複数の論点が重なるため、個別ストラクチャーによる判断差が大きい分野です。日本不動産を信託や国外法人と組み合わせて保有している場合は専門家確認が特に重要です。

一次情報と確認日

国家税務総局政策法規庫掲載「財政部 税務総局关于离岸信托个人所得税有关事项的公告」および「国家税務総局关于离岸信托个人所得税有关征管事项的公告」を2026年9月7日に確認しました。