結論

国税庁e-Taxは2026年8月28日、「報告事項の提供方法(CRS)に係る仕様書(KSK2対応版)」を更新しました。今回更新されたのは主として「受付システムインターフェイスに関する仕様書」で、更新内容の受付開始は2026年9月24日が予定されています。これは金融機関等がCRS(Common Reporting Standard=共通報告基準)に基づく金融口座情報を国税庁へ電子的に報告するためのシステム仕様の更新であり、投資家個人に新しい税金を課す制度改正ではありません。

しかし、中国本土・香港・シンガポール・日本など複数の国・地域に銀行・証券口座や法人を持つ中国人投資家にとって、CRSのシステム高度化は重要です。海外口座を利用して日本不動産を取得する場合、「どこから送金したか」だけではなく、金融機関に届け出た税務上の居住地、納税者番号(TIN)、口座名義、実質的支配者、各国での税務申告との整合性を継続的に確認する必要があります。

2026年の最新動向

日本のCRS制度はすでに実務運用段階にあります。国税庁によれば、日本国内の報告金融機関等は、一定の非居住者の金融口座情報を毎年4月30日までに所轄税務署長へ報告し、その情報が租税条約等の情報交換規定に基づいて外国税務当局へ提供されます。

さらに重要なのは、OECDが2022年にCRSを改訂し、日本も2024年度税制改正でこれに対応したことです。日本では改正後の制度が2026年から施行され、2027年以後、改正後の制度に基づく金融口座情報の報告・交換が行われます。したがって、今回のKSK2対応仕様の更新は単独の技術変更としてではなく、国際的な金融情報交換制度の拡充に対応するインフラ整備の一環として見るべきです。

国税庁公表の令和6事務年度の実績では、日本は101か国・地域から約274万口座、残高約17.7兆円のCRS情報を受領し、84か国・地域へ約32.8万口座、残高約8.1兆円の情報を提供しています。交換可能地域には中国本土、香港、シンガポールも含まれています。

CRSの制度背景と適用条件

CRSは、外国金融機関を利用した国際的な脱税・租税回避への対応を目的としてOECDが策定した国際基準です。日本では2017年1月1日以後、新たに金融機関で口座開設等をする者について、居住地国などを記載した届出書を金融機関へ提出する仕組みが導入されています。金融機関はその情報等を基礎として報告対象口座を特定します。

ここで特に注意したいのが、「中国国籍だから中国の税務居住者」と単純に判断できるわけではない点です。国税庁も、原則として国籍情報だけで住所等所在地国を特定することはできず、現在の住所・居所等の情報に基づいて判断する必要があると明示しています。

日本の所得税法上も、居住者か非居住者かは国籍だけでは決まりません。日本国内に住所、すなわち生活の本拠があるか、または引き続き1年以上居所があるかなどを基礎に判断され、住居、職業、資産、親族の居住状況などの客観的事実が考慮されます。また、日本と外国の双方で居住者と判定される場合には、租税条約上の居住者判定も検討する必要があります。

中国人投資家と日本不動産への影響

CRSが直接交換する中心情報は金融口座情報であり、日本の不動産登記情報そのものをCRSによって交換する制度ではありません。しかし、不動産投資と金融口座は実務上密接につながっています。

例えば、中国人投資家が香港やシンガポールの金融口座から日本へ購入資金を送金し、日本国内で賃料を受け取り、その収益を海外口座へ送金する場合、銀行口座には購入資金、賃料、売却代金などの資金移動が記録されます。したがって、CRS上の税務居住地情報と、各国で申告している所得・資産関係が一致しているかを確認することが重要になります。

特に「香港口座を使えば中国側から見えない」「シンガポール法人名義ならCRSの対象外」といった一律の理解は危険です。口座の種類、法人・信託等の区分、実質的支配者、税務上の居住地その他の条件によって報告関係は異なるため、個別判定が必要です。

また、CRSは課税制度そのものではないため、CRSで口座情報が交換されたことによって一定税率が自動的に課されるわけでもありません。不動産賃料・譲渡所得等について、日本での源泉徴収が必要となる場合であっても、源泉徴収率と最終的な所得税額・実効税率は別の概念です。確定申告、必要経費、取得費、租税条約、外国税額控除などを含めて最終税額を判定する必要があります。

日本不動産実務での注意点

中国人を含む海外投資家の日本不動産取引では、売買契約だけを見るのではなく、①投資家本人の税務居住地、②購入資金を保有する金融機関と口座名義、③TIN等の登録内容、④日本で発生する賃料・売却益等の申告、⑤海外への資金移動、⑥法人・信託等を利用する場合の実質的支配関係まで一体として確認することが望まれます。

2026年8月28日のe-Tax仕様更新は、直ちに中国人投資家の税負担を増加させるものではありません。一方、日本を含む各国・地域の税務当局が金融口座情報を継続的かつ電子的に交換する制度基盤が整備されていることを示しています。海外口座を利用する日本不動産投資では、「口座をどの国に置くか」だけで税務を考えるのではなく、実際の税務居住地と所得申告、金融機関への自己申告を整合させることが、今後さらに重要になります。

一次情報:国税庁e-Tax「報告事項の提供方法(CRS)に係る仕様書(KSK2対応版)一覧」(2026年8月28日更新)/国税庁「共通報告基準(CRS)に基づく自動的情報交換に関する情報」/国税庁「CRS情報の交換状況」