【結論】

2026年9月5日時点で中国国家税務総局の一次情報を再確認すると、中国の個人所得税上の「居民個人」は国籍だけでは決まりません。中国個人所得税法第1条は、①中国国内に「住所」を有する個人、または②中国国内に住所を有しないものの、1納税年度に中国国内で累計183日以上居住する個人を居民個人と定めています。居民個人は原則として中国国内・国外から取得する所得について中国個人所得税の対象となります。したがって、「中国籍だから必ず中国税務居住者」「日本に住み始めたから自動的に中国非居民」といった判断は正確ではありません。

【183日より先に「住所」を確認する】

実務上最も重要なのは、183日基準がすべてではないことです。中国個人所得税法実施条例第2条では、中国国内に「住所」があるとは、戸籍、家庭、経済的利益関係によって中国国内で習慣的に居住することを意味すると定めています。ここでいう住所は、単に住宅を所有している場所ではありません。国家税務総局も、「習慣的居住」は特定期間の実際の滞在場所とは異なる法的概念であり、海外勤務・留学等の理由が終了した後に中国へ戻って生活すると認められる場合、中国が習慣的居住地となり得ると説明しています。

したがって、中国に住所を有すると判断される人については、「今年は中国滞在が183日未満だった」という事実だけで直ちに非居民になるわけではありません。逆に、中国国内に住宅を購入した外国人であっても、仕事等の終了後に国外へ戻る生活関係であれば、住宅所有だけを理由として中国に住所があるとは限りません。

【住所がない人に183日基準】

中国国内に住所を有しない個人については、1月1日から12月31日までの納税年度に中国国内で累計183日以上居住すれば居民個人、183日未満なら非居民個人となるのが基本です。居住日数は、中国国内にその日24時間滞在した日を1日として計算し、24時間未満の日は中国国内居住日数に算入しません。

さらに、無住所個人にはいわゆる「6年ルール」があります。中国国内で183日以上居住した年度が連続6年未満の場合、一定の手続を前提として、中国国外源泉かつ国外の法人・個人から支払われる所得が中国で免税となり得ます。また、183日以上居住した年度でも1回の出国が30日を超えれば、連続年数はリセットされます。したがって、「183日を超えた瞬間、世界中のすべての所得が無条件で中国課税になる」という説明も正確ではありません。

【日本へ移住した中国人は日中双方を判定】

日本側には別の居住者判定があります。国税庁によれば、日本の所得税法上の「居住者」は、国内に住所を有するか、現在まで引き続き1年以上居所を有する個人です。「住所」は生活の本拠を意味し、客観的事実によって判断します。したがって、中国側の183日ルールをそのまま日本の居住者判定へ当てはめることはできません。

例えば、中国から東京へ移住し、日本で家族と生活しながら事業を行う投資家について、日本では居住者となる一方、中国国内法上も住所等の事情から居民個人に該当すると判断される可能性があります。このように国内法上、日中双方の居住者となるケースでは、日中租税条約による調整が重要になります。

日中租税条約第4条では、双方の居住者となる個人について、まず恒久的住居、次に人的・経済的関係がより密接な「重要な利害関係の中心」、その次に常用の住居、さらに国籍という順序で判定し、それでも決まらない場合には両国の権限ある当局による協議を予定しています。つまり、国籍は最初の判定基準ではありません。

【中国人投資家への影響】

日本不動産を購入する中国人投資家にとって、税務居住地は賃料や売却益の国外所得申告、外国税額控除等を判断する出発点になります。中国の居民個人に該当する場合、日本不動産から得る所得が中国でも課税計算の対象となり得ます。一方、日本で同じ所得について納付した一定の所得税は、中国個人所得税法第7条に基づき、中国側の限度額まで外国税額控除の対象となり得ます。日本税と中国税を単純に二重加算するものではありません。

また、香港やシンガポールの銀行口座から日本の不動産代金を送金しても、それだけで本人の税務居住地が香港・シンガポールへ移るわけではありません。銀行口座所在地、法人所在地、不動産所在地、個人の税務居住地は別々の概念です。

【日本不動産実務への影響】

中国人顧客の日本不動産取引では、パスポートだけを見て「中国税務居住者」と記載するのではなく、実際の生活拠点、家族所在地、職業・事業、日中の滞在日数、中国での住所の有無、日本での住所・居所などを確認する必要があります。特に日本へ移住したばかりの投資家、日中を頻繁に往来する経営者、香港・シンガポールにも法人や住居を持つ投資家は、単純な国籍基準では処理できません。

なお、税務居住者判定は、日本不動産に対する日本の源泉徴収率や最終税率と同じ問題ではありません。非居住者に対する日本不動産賃料や売却代金には一定の場合に源泉徴収がありますが、その源泉徴収率を最終税率とみなすことはできません。所得計算、確定申告、租税条約、外国税額控除まで含めて確認する必要があります。

【注意点】

中国の税務居住者判定では、「中国籍か」「183日を超えたか」だけを見るのではなく、まず中国国内に税法上の住所があるかを確認し、無住所の場合に183日基準と6年ルールを検討するのが重要です。さらに日本側でも独立して居住者判定を行い、双方の国内法で居住者となる場合には日中租税条約による調整を検討します。

一次情報:中国国家税務総局「中華人民共和国個人所得税法」中国国家税務総局「個人所得税法実施条例」財政部・国家税務総局公告2019年第34号(無住所個人の居住日数判定)国税庁「No.2875 居住者と非居住者の区分」。2026年9月5日時点で、これらの基本的な居住者判定ルールに変更は確認されていません。