結論
中国財政部・国家税務総局は2026年9月1日、「外籍個人股息紅利個人所得税政策」に関する公告を施行しました。外籍個人が外商投資企業から取得する配当・利益分配について、「利息・配当・利益分配所得」として20%の個人所得税を課すことを明確化し、1994年以来の関連免税規定を廃止しています。しかし、この20%という数字を「中国人が海外で得る所得はすべて20%課税」と読み替えることは誤りです。
今回何が起きたか
財政部・税務総局公告2026年第27号は2026年9月1日付で発出され、同日から施行されました。対象は外籍個人が中国の外商投資企業から受ける配当・利益分配です。支払を行う外商投資企業は原則として税額を源泉徴収し、所得を支払った翌月15日までに申告納税します。企業が源泉徴収しなかった場合、所得を取得した外籍個人が原則として翌年6月30日までに納付する仕組みも示されています。
日本不動産投資家が注意すべき理由
今回のニュースで最も注意すべきなのは「20%」という数字だけが独り歩きすることです。中国個人所得税法では所得類型ごとに課税方法が異なり、国外所得についても所得の種類や中国の税務居住者に該当するかどうかで扱いが変わります。日本のマンション賃料は通常、配当ではなく財産賃貸所得の問題であり、日本不動産の売却益は財産譲渡所得の問題です。今回の外籍個人配当公告をそのまま日本不動産所得へ適用することはできません。
中国の国外所得制度
中国の個人所得税法では、中国の「居民个人」は中国国外から取得する一定の所得について中国で課税対象となり得ます。また、国外所得に関する2020年の財政部・税務総局公告では、国外にある不動産を第三者に使用させて得る所得を国外の財産賃貸所得、国外不動産の譲渡から得る所得を国外の財産譲渡所得として整理しています。つまり、中国の税務居住者が日本の賃貸マンションから賃料を受けたり、日本不動産を売却して利益を得たりした場合、国外所得申告の検討が必要になる可能性があります。
外国税額控除が重要
一方、日本不動産には日本の課税権もあります。日本で賃貸所得や譲渡所得について所得税を実際に納めた場合、中国側では一定の要件・限度額の範囲内で国外所得税額控除を利用できる可能性があります。中国個人所得税法第7条も、居民个人が国外で取得した所得について、国外で納付した個人所得税を一定限度内で中国税額から控除できる旨を定めています。
そのため、日本不動産について「日本で20%程度、中国でさらに20%だから40%」という計算は正しくありません。まず日本側で実際の課税所得と税額を計算し、その後、中国側で所得類型ごとの中国税額と外国税額控除限度額を計算する必要があります。日本の源泉徴収税額についても、源泉徴収されたという事実と最終的に確定した日本所得税額を区別する必要があります。
税務居住者と国籍を区別
中国籍であることだけを理由に、中国で全世界所得課税が直ちに決まるわけではありません。中国個人所得税法上の居民个人判定や、住所を有しない個人に対する183日基準、連続年数に関する制度などを検討する必要があります。同様に、日本側でも中国籍だから非居住者になるのではなく、日本に住所があるか、生活の本拠がどこにあるかなどにより居住者区分を判断します。
香港・シンガポール口座への入金
日本不動産の売却代金や賃料を香港またはシンガポールの銀行口座で受け取ったとしても、それだけで所得の源泉地や本人の税務居住地が変わるわけではありません。日本不動産から生じた所得であれば、日本側では日本の国内源泉所得として扱われ得ます。また、中国の税務居住者であれば、受取口座が香港・シンガポールであることのみを理由に中国の申告対象外になるとは限りません。
実務上の対応
- 今回の20%は外籍個人の外商投資企業配当の制度であることを確認する。
- 日本不動産賃料・売却益を同じ20%制度と混同しない。
- 中国の税務居住者に該当するかを年度ごとに確認する。
- 日本で納付した税額の証明書類を保管し、中国の外国税額控除に備える。
- 香港・シンガポール口座の所在地と税務居住地を区別する。
一次情報と確認日
国家税務総局上海市税務局に掲載された「財政部 税務総局 关于外籍个人股息红利个人所得税政策有关事项的公告」を2026年9月11日に確認しました。同公告は2026年9月1日から施行されています。