結論

中国国家税務総局の関係部門は2026年8月、香港保険から得る収益が中国本土の税務居住者の課税対象になるとの報道について、国外所得への課税は新しい政策ではなく、中国の個人所得税制度が従来から採用している基本原則であると説明しました。直接の対象は保険収益に関する説明ですが、日本の不動産を保有する中国の税務居住者にとっても重要です。日本で賃料や売却益が発生した場合、中国側の申告を検討する際には、資金を香港やシンガポールの銀行口座に置いているかではなく、本人の中国における税務居住者性、所得の種類、所得源泉、外国で納付した税金の性質を確認する必要があります。

今回何が起きたか

国家税務総局の関係部門は、香港保険収益をめぐり「中国本土の税務居住者に新たな課税が始まった」とする市場の受け止めに対し、国外所得への課税は新政策ではないと明確に説明しました。税務当局は、居住者個人が国外から取得する所得について法律に従い個人所得税を納付するという原則は以前から存在し、特定の香港保険業界のみを対象とした措置ではないとしています。

日本不動産との関係

ここで重要なのは「香港保険だけの話」と処理しないことです。中国税法上の国外所得には複数の所得類型があり、国外不動産から生じる賃貸収入や不動産の譲渡による所得も、納税者の状況に応じて検討対象となります。ただし、国外所得だからすべて同じ税率になるわけではありません。所得の分類、必要経費や取得原価の計算、申告方法はそれぞれの規定に従う必要があります。「中国人なら海外所得すべてに20%」という理解は不正確です。

日本側の課税と中国側の課税は分けて考える

日本国内にある不動産の賃貸所得や譲渡所得については、日本に課税権が生じ得ます。例えば日本の非居住者が日本不動産を売却する際、買主による10.21%の源泉徴収が必要となる場合がありますが、これは売却代金に対する源泉徴収であり、売主の最終的な譲渡所得税率ではありません。取得費、譲渡費用、所有期間その他の条件を基に日本の確定申告で最終税額を計算し、源泉徴収済み税額との精算が行われます。賃料支払時の20.42%も同様に、一定の場合に支払者が行う源泉徴収であって、賃貸所得の最終税率そのものではありません。

外国税額控除を無視しない

同じ経済的所得について日本と中国の双方で課税関係が生じる場合でも、「日本で20%、中国でも20%だから合計40%」のような単純計算はできません。中国の国外所得課税では、要件を満たす外国所得税について外国税額控除を利用できる可能性があります。どの日本税が中国側で控除対象となるか、控除限度額がいくらになるか、どの年度に控除するかは個別確認が必要です。日本で源泉徴収された金額と、日本の確定申告後に確定した最終税額が異なる場合もあるため、納税証明書、確定申告書、源泉徴収関係書類を保存しておくことが重要です。

香港・シンガポール口座を使う場合

香港やシンガポールの口座で日本不動産の賃料や売却代金を受領したとしても、その事実だけで本人の税務居住地が香港やシンガポールに変わるわけではありません。銀行口座所在地、資金受領地、国籍、税務居住地は別の概念です。中国本土に生活・経済関係の中心がある投資家は、香港口座を利用していることのみを理由に中国側の国外所得申告が不要とは判断できません。

実務上の対応

  • 日本不動産の年間賃料、必要経費、日本で納めた税額を年ごとに整理する。
  • 売却時は売却代金ではなく、取得価格・改良費・売却費用等を含めた譲渡損益資料を保存する。
  • 日本の源泉徴収額と最終税額を区別する。
  • 香港・シンガポール口座の所在地ではなく、本人の中国税務居住者性を確認する。
  • 中国側で外国税額控除を利用する場合に備え、日本の納税証明資料を準備する。

今後の確認事項

今回の税務当局の説明は、国外所得管理が特定の商品だけに限定されたものではないことを示しています。日本不動産投資家は購入時だけでなく、保有、賃貸、売却、資金回収までを一つの国際税務フローとして管理することが重要です。実際の中国側税額は居住者判定、所得類型、外国税額控除その他の条件により異なるため、個別案件では最新規定と申告実務の確認が必要です。

一次情報と確認日

国家税務総局天津市税務局掲載「税务总局:对境外保险收益征税并非新政策」。2026年8月21日公表、2026年9月11日確認。