結論

国土交通省は2026年8月31日時点の令和9年度税制改正要望で、いわゆる「相続空き家の3,000万円特別控除」について、4年間の延長と対象拡充を求めました。日本に不動産を所有する中国人や、日本に長く居住していた親族から不動産を相続する中国居住者にとって、将来の売却税負担に大きく関係し得るテーマです。ただし、2026年9月5日時点では改正要望であり、延長・拡充が成立したわけではありません。

現在の制度概要

国交省資料によれば、相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日までに、被相続人の住まいを相続した相続人が、その家屋または敷地を一定の要件の下で譲渡した場合、譲渡所得の金額から3,000万円を特別控除する制度があります。ただし、家屋と敷地のいずれも相続した相続人が3人以上の場合は2,000万円とされています。

この制度は、相続を契機として古い住宅が放置されることを防ぎ、空き家の発生を抑制する目的で設けられています。単に「相続した不動産を売れば3,000万円控除できる」制度ではなく、被相続人の居住状況、物件の性質、譲渡時期、耐震・除却等を含む複数の要件が関係します。

今回の延長・拡充要望

国交省は、制度を2028年1月1日から2031年12月31日まで4年間延長するよう求めています。また、現在1981年以前の建築とされている築年要件の緩和、相続・遺贈と同視し得る民事信託契約の終了に伴って家屋・敷地等を取得した場合の対象化、被相続人居住用家屋等確認書の発行・取得手続を円滑化する措置も要望しています。

特に築年要件が緩和されれば、これまで建築年だけで対象外だった一部の住宅が将来対象となる可能性があります。ただし、国交省資料は「築年要件の緩和」を要望している段階で、新しい具体的な建築年基準を確定していません。そのため、「1982年以降の住宅もすべて対象になる」などと現時点で断定することはできません。

中国人相続人への影響

日本不動産の相続では、相続人が中国籍または中国居住者であることだけで日本の課税関係がなくなるわけではありません。相続時には日本の相続税の課税範囲、被相続人・相続人の住所や在留状況、財産の所在地等を別途検討する必要があります。その後、相続した日本不動産を売却すれば、日本国内不動産の譲渡として日本の所得税上の譲渡所得課税が問題になります。

今回の3,000万円特別控除は「相続税そのものの控除」ではなく、一定の相続空き家を譲渡した際の譲渡所得から一定額を控除する所得税の特例です。相続税の基礎控除、取得費加算の特例、通常の不動産譲渡所得計算とは別の制度であり、併用可否を含め個別確認が必要です。

非居住者として売却する場合

中国に居住する相続人が日本の非居住者として日本不動産を売却する場合、買主側に源泉徴収義務が生じることがあります。しかし、源泉徴収額と売主の最終税額は同じではありません。10.21%を売却益への最終税率と表現するのは誤りです。源泉徴収は売買代金の支払段階で行われる場合がある前払い的な仕組みであり、実際の譲渡所得は取得費、譲渡費用、利用できる特例等を踏まえ計算します。

中国側では国外所得としての確認も必要

売主が売却年度に中国の居民個人に該当する場合、日本不動産の売却所得について中国の国外財産譲渡所得の申告関係も検討する必要があります。その際、日本で実際に納付した所得税は、一定の条件の下で中国の外国税額控除対象となる可能性があります。日本で3,000万円特別控除が使えた結果、日本税額が減少した場合、中国側で控除できる国外税額も「実際に納付した所得税」を基礎として考える必要があるため、日本の特例適用が中国側の最終納税額にどう影響するかは別途計算が必要です。

実務上の資料管理

海外相続人の場合、被相続人がその住宅に居住していたことを示す資料、相続登記書類、被相続人居住用家屋等確認書、建築時期、耐震関係書類、解体記録、売買契約書などの取得に時間を要することがあります。相続から売却までの期限も制度上重要であるため、「売却時になってから証明書を集める」のではなく、相続発生時から制度利用の可能性を検討しておく方が安全です。

今後の確認事項

今回の要望のうち、延長期間、築年要件の具体的な緩和内容、民事信託終了時の対象範囲、必要書類の簡素化などは、最終的な税制改正内容を確認する必要があります。特に2028年以降の売却を予定する案件では、要望段階の条件を前提に売却時税額を確定せず、成立した租税特別措置法・政省令と国税庁の案内を再確認する必要があります。

一次情報確認日:2026年9月5日。