【結論】
国税庁は2026年7月1日、2026年(令和8年)分の路線価および評価倍率を公開しました。路線価等は不動産の実際の売買価格を示すものではなく、相続税・贈与税において土地等を評価するための基準です。2026年分は2026年1月1日を評価時点とし、1年間の地価変動等を考慮して、地価公示価格等を基にした価格の80%程度を目途に設定されています。したがって、中国人投資家が日本不動産を相続・贈与する場合、購入価格、現在の市場価格、固定資産税評価額、路線価による相続税評価額を同一の「不動産価格」として扱うことはできません。
【2026年分の最新動向】
国税庁は全国の民有地について毎年、宅地、田、畑、山林等の評価基準となる路線価・評価倍率を設定しています。2026年分は7月1日に公開され、国税庁サイトでは現在、2018年分から2026年分まで閲覧できます。路線価が設定されている地域は「路線価方式」、それ以外の地域は「倍率方式」によって評価します。
路線価方式では、道路ごとに設定された標準的な宅地1平方メートル当たりの路線価に地積を単純に掛けるだけではありません。奥行、間口、不整形、角地など土地固有の条件に応じた画地調整を行います。例えば間口が狭い宅地では奥行価格補正率に加えて間口狭小補正率が適用され、不整形地についても形状、位置、地積等に応じた補正が行われます。
一方、路線価が設定されていない倍率地域では、固定資産税評価額に国税庁が地域ごとに設定した評価倍率を乗じます。したがって、「すべての日本の土地に路線価がある」という理解も正確ではありません。
【どの年の路線価を使うのか】
相続・贈与実務で特に重要なのは、使用する路線価の「年分」です。相続または遺贈の場合は被相続人の死亡日、贈与の場合は財産を取得した日の属する年分の路線価図・評価倍率表を使用します。例えば2026年2月に相続が発生した場合でも2025年分ではなく2026年分を使用します。2026年分がまだ公開されていない時期であれば、7月の公開を待って評価することになります。
なお、国税庁は2026年1月1日時点で原発事故に伴う「帰還困難区域」に指定されている区域内の土地等については、路線価等を定めることが困難であるため、2025年分と同様、相続税等の申告上その価額を「0」として差し支えないとしています。これは一般地域とは異なる明確な例外です。
【マンションは路線価だけでは評価できない】
東京の高額マンションを保有する中国人投資家では、2024年1月1日以後の「居住用の区分所有財産」の評価制度にも注意が必要です。マンションの相続税・贈与税評価は、土地部分である敷地利用権と家屋部分である区分所有権を分けて計算します。
土地部分は原則として路線価等を使って敷地全体を評価し、敷地権割合を反映します。家屋部分は固定資産税評価額を基礎とします。さらに一定の居住用区分所有財産については、築年数、総階数、所在階、専有面積に対する敷地持分などから「評価乖離率」を算定し、「区分所有補正率」による補正を行います。
ただし、事業用テナント、一棟所有の賃貸マンション、一定の低層集合住宅、一定の二世帯住宅、棚卸商品等は、このマンション評価通達の適用対象外です。したがって、タワーマンションと一棟収益マンションを同じ計算方法で評価することもできません。
【中国人投資家への影響】
中国人が日本不動産を所有しているからといって、当然に日本の相続税・贈与税がすべての財産に課税されるわけではありません。逆に、日本に居住していないことだけを理由に、日本の相続税・贈与税と無関係になるとも限りません。課税範囲は、被相続人・相続人または贈与者・受贈者の住所、国籍、過去の居住状況、在留資格、財産所在地などを踏まえて個別に判断する必要があります。税務居住者についても「中国籍だから中国の税務居住者」と国籍だけで断定するべきではありません。
特に日本国内の土地・建物を中国人投資家が個人名義で保有し、相続や贈与が発生するケースでは、日本側の課税関係を事前に確認することが重要です。香港・シンガポール法人等を介した保有についても、法人を挟めば不動産の相続税評価問題が単純に消滅するというものではなく、株式等の財産評価や実質的な取引関係を含め、別途検討が必要です。
【日本不動産実務への影響】
不動産会社が海外投資家へ相続・贈与の概算を説明する際、「市場価格3億円だから相続税評価額も3億円」「路線価が市場価格の80%だから必ず2.4億円」といった計算をするのは適切ではありません。80%程度という数字は路線価設定上の目途であり、個別不動産の相続税評価額が実勢価格の一律80%になるという意味ではありません。土地形状、権利関係、賃貸状況、マンション補正、小規模宅地等の特例などによって結果は変わります。
また、路線価は相続税・贈与税の財産評価の基準であり、不動産賃料や売却代金に対する源泉徴収率を決める制度ではありません。非居住者の日本不動産賃料や譲渡代金に一定の源泉徴収が生じるケースでも、源泉徴収率と最終的な所得税率・税額は別の概念です。
2026年分路線価の公開によって、中国人投資家が保有する日本不動産についても、2026年中に発生する相続・贈与の土地評価基準が更新されました。特に東京など価格水準の高い地域では、市場査定だけでなく、最新路線価、固定資産税評価額、敷地権割合、建物評価、区分所有補正率、賃貸状況、適用可能な特例まで確認して初めて、実務上意味のある相続・贈与評価になります。
一次情報:国税庁「令和8年分の路線価等について」。2026年7月1日公開。路線価等は2026年1月1日を評価時点とし、地価公示価格等を基にした価格の80%程度を目途として設定されています。