結論

香港で銀行・証券口座を保有し、日本不動産投資の資金管理や売却代金の受領に利用している中国人投資家は、2027年に向けてCRS・AEOI体制がさらに厳格化することを認識しておく必要があります。香港税務局によれば、「Inland Revenue (Amendment) (Automatic Exchange of Information) Ordinance 2026」は2026年6月26日に官報公布され、2027年1月1日に施行されます。

今回の改正内容

今回の改正は、香港におけるCommon Reporting Standard、すなわちCRSによる金融口座情報の自動的交換の管理体制を強化するものです。香港税務局が示した主要変更の一つは、報告対象金融機関(Reporting Financial Institutions)が、報告すべき情報の有無にかかわらずAEOI Portalへの登録を行う義務です。従来以上に、金融機関側の登録・管理を制度的に徹底する方向が明確になりました。

CRSは「口座への課税制度」ではない

CRSは、香港口座の残高そのものに新しい税率をかける制度ではありません。金融機関が口座保有者や一定の支配者について税務上の居住地を確認し、報告対象に該当する金融口座情報を税務当局へ報告し、各国・地域の税務当局間で自動交換するための制度です。したがって、香港に銀行口座を持っているから香港の税務居住者になるわけでもなく、香港口座に日本不動産売却代金を入れれば日本・中国の課税関係から切り離されるわけでもありません。

日本不動産との具体的な関係

中国本土居住の投資家が東京の不動産を所有し、日本から受け取った賃料や売却代金を香港銀行へ送金するケースを考えると、少なくとも三つの論点を分ける必要があります。第一に、日本不動産から生じる賃貸・譲渡所得についての日本の課税です。第二に、本人が中国の税務居住者である場合の中国国外所得申告です。第三に、香港金融機関がCRS上どの税務居住地を記録し、どの情報を報告対象とするかです。

この三つは連動することはありますが同一ではありません。例えば香港銀行へ売却代金を受け取ったとしても、売却した資産が日本不動産であれば、日本で国内源泉所得として課税対象となり得ます。また、中国税務居住者であれば、中国側でも国外の財産譲渡所得として申告検討が必要です。そのうえで、日本で実際に納付した所得税について中国の外国税額控除が利用できる可能性があります。

自己証明の正確性が重要

香港税務局のAEOI案内では、金融機関が口座保有者や一定の支配者に税務居住地および納税者番号等の自己証明を求める制度が示されています。中国本土に生活の本拠があるにもかかわらず、単に香港住所や連絡先があるという理由だけで香港のみを税務居住地として申告することは適切ではありません。逆に、実際に香港へ生活の本拠を移している場合は、その事実関係に基づき税務居住地を判断する必要があります。

法人・信託等を利用する場合

個人口座だけでなく、香港法人、投資会社、信託その他の組織を日本不動産投資に利用している場合、法人自体の分類や支配者情報がCRS上問題となることがあります。法人を設立しただけで実質的所有者に関する情報交換を回避できるとは考えない方が安全です。特にパッシブな資産保有会社については、一定の場合に支配者の税務居住地確認が重要になります。

中国人投資家が準備すべき資料

  • 香港金融機関へ提出しているCRS自己証明の内容を確認する。
  • 中国、日本、香港のどこで税務居住者に該当するかを実態に基づき整理する。
  • 日本不動産の取得価格、賃料、必要経費、売却価格、日本での納税証明を保存する。
  • 香港口座への送金経路と原資を説明できるよう銀行取引記録を保管する。
  • 法人・信託を利用している場合は実質的支配者情報を確認する。

今後の注意点

香港では別途、暗号資産報告枠組みCARFや改訂CRSに関する法案も進められています。したがって、香港を利用した国際資産管理は今後も透明性強化の方向が続くと考えるべきです。ただし、CRSで情報が交換されることと、交換先の国で直ちに課税が確定することは同じではありません。最終的な課税は各国の国内税法、租税条約、所得分類、外国税額控除等に基づき判断されます。

一次情報と確認日

香港税務局「Inland Revenue (Amendment) (Automatic Exchange of Information) Ordinance 2026」を2026年9月11日に確認しました。同条例は2026年6月26日公布、2027年1月1日施行です。