結論
中国の財政部・国家税務総局は2026年7月24日、オフショア信託に関する個人所得税の取扱いを明確化し、国家税務総局は同日に具体的な申告・徴管手続きを公表しました。規定上の「財産」には動産、不動産その他の各種財産が含まれます。したがって、中国の税務居住者が日本の不動産そのもの、または日本不動産を実質的に保有する海外会社の持分などを香港、シンガポール等で設定した信託へ移すストラクチャーは、従来以上に中国個人所得税の検討が必要です。
制度の中心は「信託に入れれば課税が先送りされる」とは限らない点
財政部・税務総局公告2026年第21号では、個人が財産をオフショア信託に組み入れること、または信託を通じて利益を取得することを個人所得税法上の所得として扱う枠組みを定めました。居民個人が財産をオフショア信託に組み入れる場合、組入れ時の市場価値から財産原価と合理的費用を控除した残額を「財産譲渡所得」として申告する規定があります。その後、信託や信託が保有・支配・管理する国外実体で生じた一定の利益は、実際に本人へ分配されていなくても居民個人を納税者として年単位で申告する仕組みとされています。
日本不動産への具体的な影響
典型的に確認が必要なのは、中国の居民個人が日本マンションや一棟収益物件を直接所有し、それを国外信託へ移すケース、日本不動産を所有する日本法人・香港法人等の株式を信託へ移すケース、海外SPVを通じて日本不動産を保有し、そのSPV持分を信託財産とするケースです。今回の制度は信託の名称だけではなく、実質的に信託機能を有する国外の法律上の取決めも対象に含めています。一方、所在国・地域の金融監督を受け、不特定多数の顧客を対象に独立して業務を行いリスクを負担する銀行・保険会社・証券会社・基金会社等が発行する金融商品は、公告が定義する「信託機能を有するその他の法律上の取決め」から除外されています。
申告時期も具体化
国家税務総局公告2026年第15号では、居民個人が財産をオフショア信託に組み入れた場合、翌年3月1日から6月30日までに組入れ時の財産譲渡所得を申告すること、信託が前年度に生じさせた利益についても毎年3月1日から6月30日までに申告することを定めています。初回申告では信託契約、信託財産明細、組織構造などの資料提出が要求されます。外国語資料には中国語訳を併せて提出することも規定されています。
外国税額控除
重要なのは、国外で税金を払ったら中国で同額が重複課税されるという制度ではない点です。公告は、居民個人がオフショア信託に関して国外で納付した個人所得税の性質を有する税について、中国法上の要件を満たす場合に中国の当期税額から控除する仕組みを明記しています。ただし、日本のどの税額が対象になるか、信託段階・個人段階のどちらの税として扱われるか、控除限度額をどう計算するかについては個別検討が必要です。
日本の税務は別に残る
中国側でオフショア信託課税が発生しても、日本国内不動産に関する日本の課税関係が消えるわけではありません。日本の不動産から発生する賃貸所得、売却所得、法人保有の場合の法人税、信託・受益権の法的構成による日本税務を別途確認する必要があります。日本の非居住者に対する源泉徴収制度も、中国の信託課税とは別制度です。
実務で今すぐ確認すべき事項
- 信託契約上の委託者・受益者・受託者・プロテクター等を整理する。
- 日本不動産が直接信託財産なのか、法人株式を介しているのか確認する。
- 財産の取得原価と信託組入れ時の市場価値を証明できる資料を保存する。
- 日本で納めた所得税等の証明を保存し、中国の外国税額控除可否を検討する。
- 本人が中国の居民個人か非居民個人かを国籍だけで判断しない。
特に注意したい居住者判定
公告は、外国籍や国外の長期・永久居留権を取得していても、主要な経済的利益の源泉が中国国内にある場合には「住所を有する居民個人」と判定され得る旨も示しています。香港ID、シンガポールPR、外国パスポートや国外口座の保有だけで中国課税が当然に切れると判断することは危険です。
一次情報と確認日
財政部・税務総局公告2026年第21号および国家税務総局公告2026年第15号を2026年9月11日に確認。本記事の主出典は国家税務総局政策法規庫の徴管公告です。