結論

国土交通省は2026年8月31日時点の令和9年度税制改正要望で、工事請負契約書および不動産譲渡契約書に係る印紙税軽減措置を、現行期限からさらに3年間、2030年3月31日まで延長するよう求めました。日本不動産を購入・売却する中国人投資家にとって、売買契約時に直接発生し得るコストに関する直近の政策動向です。ただし、これは成立済みの延長ではありません。

現行の不動産譲渡契約書の軽減

国交省資料は、不動産譲渡契約書について契約金額別の本則税額と現行特例を示しています。例えば、500万円超1,000万円以下は本則1万円に対し5,000円、1,000万円超5,000万円以下は2万円に対し1万円、5,000万円超1億円以下は6万円に対し3万円です。1億円超5億円以下は本則10万円に対し6万円、5億円超10億円以下は20万円に対し16万円、10億円超50億円以下は40万円に対し32万円、50億円超は60万円に対し48万円とされています。

今回の要望は、この軽減措置の適用期限を2030年3月31日まで3年間延長することです。国交省は、建築コスト等の高騰を背景に不動産取引量が減少しているとして、不動産流通コストを抑え、既存・新築双方の取得負担を軽減する必要性を説明しています。

中国人投資家にとっての実務的意味

区分マンションから数十億円規模の一棟ビル、商業不動産まで、紙の不動産売買契約書を作成する取引では、契約金額に応じ印紙税が問題になります。物件価格全体から見れば印紙税は小さな割合ですが、日本で会社を設立して複数物件を取得する投資家や、頻繁に売買する事業者では累積コストになります。

ただし、不動産取得税、登録免許税、仲介手数料、司法書士費用などと印紙税は別です。例えば1億円の物件を購入する場合でも、売買契約書の印紙税だけを見て総取得コストが大きく下がると判断することはできません。不動産取得時の資金計画では各税費用を分けて計算する必要があります。

紙契約と電子契約を区別する

近年は不動産取引でも電子契約が利用されるようになっています。印紙税は課税文書に関する税であるため、どのような形で契約文書が作成されたかは重要な実務論点です。今回の国交省要望は「不動産譲渡契約書に係る印紙税の特例措置」の延長要望であり、あらゆる電子取引に新しい印紙税を課す内容ではありません。中国人買主が海外から電子署名する案件では、紙の原本を別途作成するかどうかを含め、契約方式を仲介会社・司法書士等と確認する必要があります。

非居住者売主の源泉徴収とは全く別

売主が日本の非居住者である場合、不動産売却では買主側に所得税の源泉徴収義務が問題となることがあります。しかし、その源泉徴収と売買契約書の印紙税は別制度です。印紙税の軽減が延長されたとしても、非居住者売主に対する源泉徴収ルールや売主の最終的な譲渡所得税額が変更されるわけではありません。特に10.21%という数字を不動産売却の最終税率と理解してはいけません。源泉徴収がある場合でも、最終税額は譲渡所得の計算や申告を通じて別途確定します。

中国側の税務とも切り分ける

中国の居民個人が日本不動産を売却した場合、中国で国外の財産譲渡所得として申告関係が生じ得ます。日本で売買契約書に印紙を貼ったからといって、その印紙税額が中国の外国税額控除として自動的に差し引けるわけではありません。外国税額控除の対象となる国外所得税と、取引文書に課される印紙税は性質が異なります。

現時点の注意

国交省資料では現行特例の期限を2027年3月31日までとし、2030年3月31日までの延長を要望しています。ただし、2026年9月5日時点では要望段階です。今後の税制改正大綱、法律案、成立法令によって最終内容を確認する必要があります。特に2027年4月以降に契約予定の案件については、現段階の要望税額を確定値として見積書や契約条件に固定しないことが重要です。

一次情報確認日:2026年9月5日。