結論
国税庁は2026年8月3日、「国外財産調書及び財産債務調書関係」の法令解釈通達を一部改正しました。国税庁が示した改正趣旨は「国税システムの更改等に伴い、所要の整備を行うもの」です。また、国外財産調書制度の案内・FAQも2026年8月版に更新されています。今回の改正を新たな課税制度創設と理解するのは適切ではありませんが、日本に居住する中国人投資家が中国本土、香港、シンガポール等に金融資産を保有している場合には、国外財産の申告管理を再確認する契機となります。
国外財産調書とは何か
国外財産調書は、日本の所得税法上の一定の居住者が国外に保有する財産について、法定条件を満たした場合に税務署へ報告する制度です。典型的には海外の銀行預金、証券、保険、海外不動産などが検討対象になります。これとは別に財産債務調書制度もあり、一定の所得・財産要件を満たす者について国内外の財産・債務を報告する仕組みがあります。
中国人投資家が誤解しやすい点
第一に、中国籍であることと日本の税務居住者であることは同じではありません。日本に生活の本拠を置くなど、日本税法上の居住者となっている中国人は、国外財産調書等の対象判定を行う必要があります。一方、中国籍であっても日本の非居住者であれば、同制度の適用関係は異なります。
第二に、香港やシンガポールに銀行口座を持っているだけで香港・シンガポールの税務居住者になるわけではありません。口座所在地と税務居住地は分けて考える必要があります。
CRSとの違い
国外財産調書とCRSも同じ制度ではありません。CRSは金融機関が税務居住地等を確認して金融口座情報を税務当局へ報告し、税務当局間で自動交換する仕組みです。国外財産調書は、一定の納税者本人が日本の税務署へ財産情報を提出する国内制度です。したがって「CRSで銀行が報告するから、自分では国外財産調書を出さなくてよい」という考え方は危険です。
日本不動産投資との関係
日本居住の中国人投資家が、日本不動産を所有する一方で香港HSBC、香港DBS、シンガポールの銀行や証券会社等にも資産を持つケースでは、日本不動産自体の所得税・固定資産税等だけを管理していては不十分な場合があります。日本での税務居住者区分、国外金融資産の年末残高、国外不動産や海外法人持分などを含め、財産報告制度の対象になるかを毎年確認することが重要です。
中国側の税務との関係
日本で国外財産調書を提出することと、中国で国外所得に課税されることも別問題です。本人が中国の税収居民に該当する場合は中国側の所得課税を別途検討し、日本の税務居住者となっている場合は日本側の全世界所得課税や財産報告制度を確認します。両国の国内法で居住者に該当し得る場合には、日中租税条約上の居住者判定が問題となることもあるため、国籍だけで結論を出すべきではありません。
実務上のチェックポイント
- 12月31日時点の海外預金・証券・保険・海外不動産等を一覧化する。
- 各資産について名義、所在地、通貨、取得価額、年末価額資料を保存する。
- 日本の居住者・非居住者区分を毎年確認する。
- CRSの銀行届出と日本の税務申告上の居住地が矛盾していないか確認する。
- 国外所得申告と国外財産報告を混同しない。
今回の改正の位置付け
国税庁自身が改正趣旨を国税システム更改等に伴う整備と説明しているため、今回の通達改正だけを根拠に「国外財産調書の対象範囲が全面的に拡大した」と断定すべきではありません。一方、制度案内とFAQが2026年8月版へ更新されたことから、2026年分の申告・報告準備では最新版を参照する必要があります。
一次情報と確認日
国税庁「『内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律(国外財産調書及び財産債務調書関係)の取扱いについて』の一部改正について(法令解釈通達)」、2026年8月3日。2026年9月5日確認。