【結論】

2026年9月5日時点で中国財政部・国家税務総局の一次情報を再確認すると、中国の「居民個人」が日本不動産から賃料所得や譲渡所得を得た場合、中国側でも国外所得として個人所得税の計算対象となり得ます。一方、日本でその所得について適法に納付した所得税は、中国で計算される外国税額控除の限度額まで控除できます。したがって、「中国人が海外不動産で所得を得れば一律20%」「日本で税金を払った後、中国でもさらに20%課税されるので合計40%」という理解は正確ではありません。

【現在も有効な国外所得課税ルール】

制度の中心となるのは、財政部・国家税務総局公告2020年第3号「关于境外所得有关个人所得税政策的公告」です。2026年9月5日時点でも国家税務総局の政策法規データベースで確認でき、国外所得の所得区分、税額計算、外国税額控除、申告期限等を定めています。

まず重要なのは、対象が単純に「中国国籍者」ではなく、中国個人所得税法上の「居民個人」であることです。中国国内に住所を有する個人、または住所がなくても一納税年度に中国国内に累計183日以上居住する個人が原則として居民個人となります。「住所」は戸籍だけではなく、家庭・経済的利益関係による中国国内での習慣的居住も考慮されます。したがって、中国籍だから必ず中国税務居民、海外在住だから必ず中国非居民と断定することはできません。

また、中国国内に住所を有しない個人については、183日以上居住した年度が連続6年未満である場合など、一定の国外所得に免税措置が適用され得る「6年ルール」も存在します。国外所得課税を判断する際は、国籍だけでなく住所、滞在日数、所得の支払者等を確認する必要があります。

【日本不動産の賃料・売却益はどう扱われるか】

公告第3号では、中国国外の財産を国外で使用させて得る所得を国外の「財産租賃所得」、中国国外の不動産を譲渡して得る所得を国外の「財産転譲所得」としています。日本に所在する不動産の賃貸・売却は、中国居民個人にとって原則としてこの国外所得に該当します。

中国個人所得税法では、財産租賃所得と財産転譲所得には20%の比例税率が規定されています。ただし、「20%」は収入総額へ一律に掛けるという意味ではありません。財産賃貸所得には法定の費用控除があり、財産譲渡所得では譲渡収入から財産原価と合理的費用を控除した残額が課税所得となります。

このため、「日本のマンションを1億円で売却したから中国で2,000万円課税」という単純計算はできません。取得価額や合理的費用などを中国税法上どこまで認められるかを確認して課税所得を算定する必要があります。

【日本で払った税金は外国税額控除の対象になり得る】

中国居民個人が日本で所得税を実際に納付した場合、その税額のうち所得税の性質を有するものは、中国側で外国税額控除の対象になり得ます。ただし無制限に控除できるわけではなく、その日本所得について中国法に基づいて計算した「抵免限額」が上限となります。

例えば、日本不動産所得について中国側で計算した税額が100、日本で適法に納付した控除対象税額が80なら、原則として80を控除し、中国側では差額20が残るという考え方になります。逆に日本で120納付しても、その年度の控除限度額が100なら当年度に120全額を控除できるわけではありません。

ただし、限度額を超えた外国所得税については、公告第3号により、その後5納税年度に繰り越して一定の範囲で控除することが可能です。

【何でも外国税額控除できるわけではない】

国外で支払った金額のすべてが控除対象になるわけではありません。中国当局は、現地法上の誤納・過誤徴収、租税条約上本来課税されるべきでない税額、延滞利息・延滞金・罰金、後から還付・補償された税額、中国で免税となる国外所得に対応する外国税などを控除対象から除外しています。

日本不動産ではさらに「源泉徴収税額」と「最終税額」を区別する必要があります。例えば非居住者オーナーへの一定の賃料には日本で20.42%、非居住者等からの一定の不動産購入では売買代金に10.21%の源泉徴収が生じますが、これらは日本側の支払段階の源泉徴収です。最終的な日本所得税額とは必ずしも一致せず、確定申告による精算・還付後の税額を踏まえて、中国側で控除対象となる実際の外国所得税を確認する必要があります。

【中国人投資家への影響】

東京の収益マンションを保有する中国居民個人の場合、日本で申告・納税すれば中国側の税務が自動的に終了するわけではありません。一方、中国でも20%をそのまま二重に払うわけでもありません。日本側で不動産所得または譲渡所得を正確に計算し、その納税結果を中国側の所得区分と外国税額控除へ接続することが重要です。

公告第3号では、居民個人が国外所得を取得した場合、原則として所得を取得した翌年3月1日から6月30日までに申告するとしています。

【日本不動産実務への影響と注意点】

中国人投資家の日本不動産案件では、売買契約書、購入時の精算書、仲介手数料、登記費用、賃貸管理資料、固定資産税資料、修繕費、売却時費用、日本の確定申告書、源泉徴収関係資料、納税証明等を継続して保存することが重要です。特に取得価額を証明できない場合、日本側だけでなく中国側の譲渡所得計算でも説明が難しくなる可能性があります。

また、香港・シンガポール等の口座を経由して日本不動産へ投資しても、それだけで所得の税務上の帰属や本人の税務居住地が変わるわけではありません。資金移動、資産所在地、所得の種類、実際の税務居住地を分けて判断する必要があります。

結局、中国の国外所得課税で重要なのは「海外所得20%」という数字だけを見ることではありません。①中国の居民個人に該当するか、②日本不動産所得が中国でどの所得区分になるか、③中国法上の課税所得はいくらか、④日本で実際に納付した控除対象税額はいくらか、⑤中国側の抵免限度額はいくらか、という順序で確認することが必要です。

一次情報:中国国家税務総局「財政部・税務総局公告2020年第3号―国外所得に関する個人所得税政策」中国財政部・国家税務総局公告2020年第3号中華人民共和国個人所得税法。2026年9月5日時点で、外国税額控除の基本制度および超過額の5納税年度繰越しを確認できます。